医療安全管理指針

山口医院医療安全管理指針
平成19年5月制定

1.総則

1-1 基本理念
本診療所は、患者が安心して安全な医療を受けられる環境を整え、良質な医療を提供することを通じて、地域社会に貢献することを目的としている。
この目的を達成するため、院長のリーダーシップのもとに、全職員が一丸となって、医療安全に対する意識を高めるとともに、個人と組織の両面から事故を未然に回避しうる能力を強固なものにすることが必要である。これらの取り組みを明確なものとし、本診療所における医療の安全管理、医療事故防止の徹底を図るため、ここに山口医院医療安全管理指針を定める。

1-2 用語の定義
本指針で使用する主な用語の定義は、以下のとおりとする。

(1)医療事故
診療の過程において患者に発生した望ましくない事象医療提供者の過失の有無は問わず、不可抗力と思われる事象も含む
(2)職員
本診療所に勤務する医師、看護師、事務職員、厨房、営繕職員等あらゆる職種を含む
(3)医療安全推進者
医療安全管理に必要な知識および技能を有する職員であって、院長の指名により、本診療所全体の医療安全管理を中心的に担当する者(医療安全管理者と同義、以下同じ)であって専任、兼任の別を問わない。
診療報酬の「医療安全対策加算」の施設基準に規定する「医療安全管理者」とは限らない。当院では副看護師長を医療安全推進者とする。

2.医療安全管理委員会

(1)医療安全管理委員会の設置
本診療所内における医療安全管理対策を総合的に企画、実施するために、医療安全管理委員会を設置する。
(2)委員の構成
医療安全管理委員会の構成は、以下のとおりとし、氏名および役職を院内に掲示する。
【1】院長(委員会の委員長を務めるものとする)
【2】副院長
【3】看護師長、副看護師長
【4】事務長、事務主任
【5】厨房長
【6】営繕係代表
【7】医療安全推進者(当院では副看護師長)
【8】その他必要に応じて招集する
(3)委員会の任務
医療安全管理委員会の主な任務は、下記のとおりとする。
【1】医療安全管理委員会の開催(月に1回程度)
【2】医療に関わる安全管理のための報告制度等で得られた事例の検討、再発防止策の策定および職員への周知
【3】院内の医療事故防止活動および医療安全管理研修の企画立案
【4】その他、安全管理のために必要な事項
(4)委員会の運営
医療安全管理委員会の運営は、以下のとおりとする。
【1】委員会は月に1回程度、および必要に応じて開催する。
【2】本委員会は、定例とする他の委員会等とあわせて開催することができる。
【3】委員会開催後、速やかに議事の概要を作成し、2年間これを保管する。

3.報告等にもとづく医療に関わる安全確保を目的とした改善方策

(1)報告にもとづく情報収集
医療事故および事故になりかけた事例を検討し、本院の医療の質の改善と、事故の未然防止・再発防止に資する対策を策定するのに必要な情報を収集するために、すべての職員は以下の要領に従い、医療事故等の報告を行うものとする。
【1】職員からの報告
職員は、次のいずれかに該当する状況に遭遇した場合には、報告書式に定める書面(各部門毎のインシデントリポート様式)により、速やかに報告するものとする。診療に係わる事例については診療録、看護記録に基づき作成する。
[ア]医療事故
→医療側の過失の有無を問わず、患者に望ましくない事象が発生した場合は、発生後直ちに、医療安全管理委員会の委員長(院長)に報告する。
[イ]医療事故には至らなかったが、発見、対応等が遅れれば患者に有害な影響を与えたと考えられた事例
→速やかに、医療安全管理委員会の委員長(院長)へ報告する。
[ウ]その他、日常診療の中で危険と思われる状況
→適宜、医療安全管理委員会の委員長(院長)へ報告する。
【2】報告された情報の取り扱い
院長、その他の管理的地位にある者は、報告を行った職員に対して、これを理由として不利益な取り扱いを行ってはならない。
(2)報告内容に基づく改善策の検討
医療安全管理委員会は、前項に基づいて収集された情報を、本院の医療の質の改善に資するよう、以下の目的に活用するものとする。
【1】インシデントリポートを基に、事故のレベル判定、要因分析、要因分類、院内対応、院外への働きかけ等をまとめるとともに、レベル3以上はアクシデントリポートとして再提出させる。分析結果やまとめられた対策については、文書として残し、各部署での定期的な朝礼等で周知徹底する。
【2】上記【1】で策定した事故防止対策が、各部門で確実に実施され、事故防止、医療の質の改善に効果を上げているかを評価すること。

4.安全管理のための指針・マニュアルの作成

院長は本指針の運用後、多くの職員の積極的な参加を得て、以下に示す具体的なマニュアル等を作成し、必要に応じて見直しを図るように努める。
マニュアル等は、作成、改変のつど、医療安全管理委員会に報告し、すべての職員に周知する。
(1)院内感染対策指針
(2)医薬品安全使用対策指針
(3)医療機器安全使用対策指針
(4)輸血対策指針
(5)褥瘡対策指針
(6)インフォームドコンセント指針
(7)その他

5.医療安全管理のための研修

(1)医療安全管理のための研修の実施
院長は、あらかじめ医療安全管理委員会において作成した研修計画にしたがい、1年に2回程度、および必要に応じて、全職員を対象とした医療安全管理のための研修を実施する。研修を実施した際は、その概要(開催日時、出席者、研修項目)を記録し、2年間保管する。当日出席できなかった職員については後日補充研修を行う。

(2)研修の趣旨
研修は、医療安全管理の基本的な考え方、事故防止の具体的な手法等をすべての職員に周知徹底することを通じて、職員個々の安全意識の向上を図るとともに、本診療所全体の医療安全を向上させることを目的とする。

(3)研修の方法
研修は、院長等の講義、診療所内での報告会、事例分析、外部講師を招聘しての講習、外部の講習会・研修会の伝達報告会または有益な文献等の抄読などの方法によって行う。

6.事故発生時の対応

医療事故に際しては、まず、患者の治療が最優先され、次いで、何が起こった、いかなる治療が行われたかについて診療記録が正確になされなければならない。また、医療事故に際しては、医療事故報告、事故調査・分析(施設としての統一見解を作成)、警察への届け出の要否、事故の再発防止策を検討する。
医療行為に伴う「異状死」については日本法医学会、外科学会など学会ばかりでなく、厚生労働省や裁判所の判断は具体的に示されていない。医師法第21条では、医師は、死体または妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異状があると認められたときは、24時間以内に所轄警察に届け出の義務が発生する。警察への報告が必要か否かは施設長が判断する。所属医師会、日本産婦人科医会支部にも相談する。

(1)急変発生時の対応
【1】応援医師(当院では小児科医の副院長)
【2】家族への連絡(初診時に連絡先の確認)
【3】移送先への連絡(移送の必要性を素早く決断する。搬送先を日頃より決めておく。まずは電話連絡、後に詳細はFAXなどで。転院後も十分な連絡を取ること。)
【4】看護要員などの対応(日頃より訓練)
【5】家族への説明(事実のみをわかりやすい言葉で正確に説明する。明白なミスは謝罪し、誠意を持って対応するのが肝要。)
【6】診療録の記録(症状、経過、処置などを詳細にしかも早い時期に記録。緊急に追われて記載できない場合もメモしておいて後で整理する。)
【7】郡市医師会長、産婦人科医会支部長に連絡
【8】日本産婦人科医会支部に医療事故報告
(2)死亡事故発生時の対応
(日本産婦人科医会平成18年2月発行「医療安全対策院内研修会用資料」5~6ページ参照)
【1】家族への対応
【2】剖検
【3】死亡診断書
【4】地区医師会(県・郡市)、産婦医会支部への連絡
【5】警察への連絡
【6】葬儀・見舞い
(3)紛争発生時の初期対応
【1】診療録の検討と整備(カルテに記載されていることが重要。記録の整理は早期に。コピー後に加筆してはならない。)
【2】患者、家族よりの苦情への対応
[ア]電話への対応(冷静に対応しよく聞く。即座の返答は避ける。時刻、相手、内容を記録。可能であれば電話録音。)
[イ]面会への対応(同情を持って冷静に。中座しないで済むように、診療時間以外に対応する。複数の人員で対応。日時、相手、内容など面会内容は記録しておく。)
[ウ]医師会にも患者さんの相談窓口があることを説明する。
【3】所属医師会への報告(発生直後)
【4】産婦医会支部への連絡(事例、判例、文献など関連資料があり、アドバイスを受ける。)
【5】弁護士との連絡(早い時期から相談する。医賠責の保険によるカバーを期待する場合には、医賠責加入保険会社に相談する。)
(4)カルテの重要性
【1】カルテは医事紛争が発生した場合に診療の内容を証明する最も重要な証拠書類となる。
【2】症状、所見、治療、経過のみでなく、説明した内容、指導を行った具体的事項、今後の方針なども記載しておく。
【3】十分に内容を点検して、誤記、脱漏があれば補充訂正しておく(改ざんではない)。訂正、削除は、元の記載が判読できるように二本線を引くこととし、修正液を使ったり黒く塗りつぶすことはしない。
【4】患者本人、家族、弁護士などにカルテの提示を求められたら、正確に記載されたカルテを見せるだけにとどめるのが適切。記載に不備や間違いのあるカルテを見せると悪く解釈されてしまう恐れもあるので注意すべきである。
【5】コピーは第三者に渡ると悪用されることもあり得る。コピーを渡す法的義務はない。
※カルテに書いてないことは実施されなかったと見なされる。異常がない場合でも記録する。血圧、脈拍、呼吸などバイタルサインを記載することは重要である。紛争になってから(特にコピーを取られてから)はカルテに手を加えない。改ざんと見なされる。後で思い出し追加記載する場合は理由と日付を入れること。カルテは最も重要な証拠書類である。カルテの字が不明瞭な場合は裁判官の心証を悪くする。

7ー1 本指針の周知
本指針の内容については、院長、医療安全推進者、医療安全管理委員会等を通じて、全職員に周知徹底する。

7-2 本指針の見直し、改正
(1)医療安全管理委員会は、少なくとも毎年1回以上、本指針の見直しを議事として取り上げ検討するものとする。
(2)保指針の改正は、医療安全管理委員会の決定により行う。

7-3 本指針の閲覧
本指針の内容を含め、職員は患者との情報の共有に努めるとともに、患者およびその家族等から閲覧の求めがあった場合には、これに応じるものとする。また、本指針についての照会には医療安全推進者が対応する。

7-4 患者からの相談への対応
病状や治療方針などに関する患者からの相談に対しては、担当者を決め、誠実に対応し、担当者は必要に応じ主治医、担当看護師等へ内容を報告する。